一般内科・外科・予防獣医療はもちろん、救急・腫瘍・血液疾患・免疫疾患

脾臓のデキモノ

脾臓という臓器があります。

お腹の中に存在して、古くなった血液の細胞を除去したり、

場合によっては血液を作ったりといった働きがあります。

 

脾臓にデキモノができることは珍しくありませんが、

やっかいなのが、脾臓のデキモノは症状が出にくい点です。

かなり大きくなるまで症状が出ませんし、

大きくなっても症状が出ないこともあります。

高齢のワンちゃんで多く

とくにラブラドールゴールデンといったレトリバー犬種に多く見られます。

(小型犬でも起きることもあります)

猫ちゃんの場合、脾臓にデキモノができることはありますが、

ワンちゃんと比べると圧倒的に少ないようです。

症状が出ないこともあると述べましたが、

しかしひとたび脾臓のデキモノが破れてしまうと、

お腹の中で大出血を起こし、とたんにグッタリしてしまうことがあります

その時点で検査をして初めて脾臓のデキモノに気がつく事もあります。

もしお腹の中で出血してしまった場合には、

手術でデキモノを切除し、出血を止めることになります。

 

14歳のラブラドール君、

下痢・食欲不振ということで病院に来ました。

検査の結果、脾臓にデキモノがあることが判明。

少しわかりにくいですが、下のレントゲン写真で、

黄色い○のなかに白い影が映っています。

これが脾臓のデキモノです。

 

脾臓のデキモノと今回の下痢・食欲不振は関連がなさそうでしたが、

このデキモノをそのままにしておくと大出血を起こす可能性が十分考えられました。

飼い主さんはすぐに手術を決断して下さり、

下痢・食欲不振が改善した後、手術を行いました。

手術中の写真ですが、こぶしと同じくらいの大きさのデキモノが脾臓にできています。

 

 

脾臓のデキモノは血管肉腫という、

非常に悪性度の高い悪性腫瘍(がん)の事が多いのですが、

この子の場合、検査の結果は過形成というもので、

良性のデキモノでした。 

 

手術で脾臓ごと摘出したため、今後出血する可能性は0になり、

また良性でしたので、今後の心配も全く要らなくなりました。

高齢のラブちゃんでしたが、

手術も頑張って乗り切ってくれましたし、今後の心配もなくなり良かったですね。

 

こちらの写真は、12歳のMIX犬の子で、

脾臓のデキモノが破れてしまったケースです。 

さっきまで元気だったのに突然グッタリしてしまったとのことでした。

検査から脾臓にデキモノがあり、お腹の中で大量に出血していることが判明。

大量出血による出血性ショックを起こしていました。

すぐにショック状態に対する治療を行い、

手術を行いました。

下の写真は手術でお腹を開けた時の様子です。

出血していることがわかりますでしょうか?

 

*注意:状況を判りやすくするため、写真がカラーになっています。

      苦手な方はご覧にならないで下さい。

このようにお腹の中で出血してしまうと、生命の危険性もあり、

手術もまさに命がけになります。

手術が無事終わったとしても、その後も何日間かは予断を許さない状態が続き、

何度か輸血したりと治療が大変になります。

またガンであった場合、お腹の中全体に転移してしまう事が考えられます。

実際にこの子の場合には、すでにお腹の中に小さな転移が沢山ありました。

 

次の写真の小さなブツブツが、

お腹の中の大網(たいもう)という脂肪組織に

転移してしまったものです。

 

 

摘出した脾臓の様子ですが、

写真左側の方にデキモノができて、それが破れてしまっています。

 

こちらは「血管肉腫」という、脾臓にとても多い悪性腫瘍でした。

この子も手術を頑張って乗り切ってくれて、手術後3日ほどで元気に退院しましたが、

血管肉腫の転移が原因で、手術後2か月ほどで残念ながら亡くなってしまいました。

以前夜間救急の動物病院に勤務していた時は、

脾臓が破れて出血している子に、

脾臓を摘出する手術を毎週のようにしていた時期がありました。

(殆どが高齢の大型犬でした。)

脾臓のトラブルを発見するためには超音波検査が一番です。

高齢のワンちゃん、とくに大型犬の子は定期健診の一環で、

脾臓の超音波検査を行うことが理想です。